「世界の縁で踊っている」・・・本書は、世界を放浪する長老詩人ななおさかきが持ち帰った膨大な海外資料の中より発掘された原書を、4年という歳月を経て翻訳し、伊豆のネイティブ、原雅子さん(プリミティヴ
プラン プレス)との共同で発行されたものです。
時は現在からわずか二百数十年前、「亀の島」に白人ヨーロッパ文化が入る以前、サンフランシスコ湾岸に生き続けていた(そして消えていった)インディアン…。その社会や生活、精神世界を描く、今まで我が国には全く知られていない事実――。
野山にはシカやカモシカが群れ、入り江ではサケやマスをクマが追い、沼地ではガンやカモ類がハリケーンのように鳴き騒いだりしていたという、豊かで夢の彼方のような世界に生き続けていたオローニの日々を再現し、今を問う。2002年「サンフランシスコ・クロニクル」紙「20世紀における西海岸ノンフィクション100冊」の一冊に選定。
図版多数掲載、テキスト:ななおさかき A5判・208P 本体価格\1800 ISBN4-916963
26-8 C0039
――本書は、「サンフランシスコ先住民のくらしと足跡」を紹介したもので、まるで日本の縄文人の心の世界を想像したくなるような、驚くべき新しい発見に満ちている。
今でこそ摩天楼の林立するサンフランシスコであるが、ほんの三百年前、まだいかなる白人たちもやって来なかったころのこの地域には、狩猟採集の生活をして農耕はしなかったネイティブな人たちがいた。サンフランシスコ湾岸地帯には、グリズリー(熊)、エルク(巨大鹿)、レイヨウ、狼、コンドル、ペリカンや鮭やニジマスの大群がいた。これらは先住民と共に消えてしまった。
精密な描写が心を打ち、現代文明の強烈な批判書となっている。「伊豆新聞」より
日本語版ができるまで
長らくネイティブアメリカンとつき合ってきたが、すぐれた資料として役立つものは意外と少ない。ホピなど南西アメリカの部族については、それでも信頼できる文献に恵まれているものの、カリフォルニアなど大平洋岸の部族にかかわるものは、眼に触れるチャンスが少なかった。
たまたまサンフランシスコで石垣島サンゴ礁を守る運動を始めたとき、二世のアーチスト、アーサー岡村にもらったのが、この本『オローニ ウェイ』であった。2メートル近いノッポの著者マルコム マルゴーリンは以前から知っていたが、彼の本を走り読みして、これは日本語にしたい、この本は日本の人たちがネイティブアメリカンの歴史を学ぶ最良のテキストのひとつと確信。原書を日本に持ち帰り、翻訳してくれる人を探しているうちに、全く偶然に必然の糸がつながり、ここに日本語版が世に出る次第。
二読し三読し、君のまわりの人々に廻し読みされることを!
さらに、半ばかびの生えた21世紀日本を吹きぬける、そよ風となりますように。
2002年12月 ななお さかき
企画監修 ななお さかき 発行者 原 雅子・ 大築 準 発行所 人間家族編集室
――心もからだも道具も完全に浄められている。そして、そっと鹿の群れに近づいていくさまは征服者というより求婚者のようであった。――本文より
食料としての鹿を狩るにも、オローニ流の作法があったとは。
サンフランシスコ周辺の大自然の恵みを糧に何百年いや、何千年にもわたる平和を実現していた小部族オローニの暮らしぶりは、侵入者たちにとって奇異なものでもあったようだ。
スペイン人探検家、宣教師、イギリス人、フランス人船長などなどによって記録された文献をベースに著者は1768年4月(このあたりにヨーロッパ人が本格的に侵入しはじめる1年前)当時のオローニの日々を再現してみせる。
童話のようにやさしく、うつくしく描かれるその世界は歴史的事実のまえで幻のように立ちつくす。
昨年この本は、サンフランシスコの新聞社、サンフランシスコ・クロニクル紙が選ぶ「20世紀における西海岸ノンフィクション部門100册の本」の一冊に選ばれた。 1978年の初版以来25年が経過しているが、今でも読み継がれ、本年発行されたものは表紙が変わり、また著者の新たに書かれたあとがきがついている。日本語版は古い版を使っているため、そのあとがきにはふれていない。しかし本文は初版と一字一句変わっていない、ということをご報告しておこう。 原 雅子
【書 評】
「先住民族の10年News」第99号「今月の本」
(2003年11月8日)
「現在のサンフランシスコ、オークランド、バークレー、パロアルト、サンゾネ、サンタクルーズ、そしてモントレーなどに、ほんの200年前に住んでいたひとたちは、恐ろしいほどの勢いで現代人から忘れ去られた」(本書「はじめに」より)。その忘れ去られたアメリカの先住民族の名は「オローニ」。
本書は、18世紀中ごろのオローニの暮らしぶりを細部にわたり紹介している。ヨーロッパからこの地域にやってきた初期のころの探検家、宣教師、船長などが記録した日記や書簡、旅行記などの資料を丹念に掘り起こし、研究書とはまたひと味違う物語がつづられている。たぶんこうあったであろう、というオローニの日々。「言い表わせない豊かさ」と船長に言わしめたサンフランシスコ湾岸に住む人々に劇的な変化が起こったのは、ヨーロッパ人が侵攻してきた約200年前。侵略者の彼らの記録から「恐ろしい勢いで忘れ去られた」人々の生活を知ることができるというのは、歴史の皮肉と言えよう。豊富な挿し絵がイマジネーションをかきたてる。
本書は昨年、サンフランシスコ・クロニクル紙が選ぶ「20世紀における米西部ノンフィクション部門100册」の1冊に選ばれ、アメリカでロングセラーになっている。 (小林
純子)
『オローニの日々』
――サンフランシスコ先住民の
くらしと足跡
マルコム・マーゴリン著
冨岡多恵子訳
“The Ohlone Way
Indian life
in the San Francisco-Monterey Bay Area”
by Malcolm Margolin
【目 次】
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・ 5
1章 オローニとその環境・・・11
土地と生きものたち 12
村の一日 18
狩りの流儀 30
鹿を狩る人 37
水を跳ね上げて 46
ドングリの収穫 51
種の実る草原 57
歩きまわるくらし 63
定住の仕組み 70
2章 村社会・・・・・・・・・・・ 78
誕生と子供時代 79
婚姻 91
分かち合って暮らす 103
交易 109
村の長 118
戦争 124
3章 スピリットの世界・・・・133
籠を編む 134
シャーマン 139
聖なる時 153
死者の島 166
ダンスの意味 172
4章 1776年から現代へ・・・178
最後の2世紀 179
あとがき・・・・・・・・・・・・・・ 193
日本語版ができるまで
ななお さかき・・・・196
参考文献・・・・・・・・・・・・・・197
索 引・・・・・・・・・・・・・・・202
挿 絵 マイケル・ハーニー
籠を編む女たち 3
景観 4
浜に打ち揚げられた鯨 14
村 25
鹿を狩る人 38
網で水鳥を捕る 49
漁師 68
若いカップル 93
村のある日 107
シャーマン 143
火葬 167
伝道所 185
地 図 リナ・マーゴリン/名倉加容子 作図
オローニの小部族 6
カリフォルニアの言語グループ 73
図 版 浜田夏子 絵
『オローニの日々』を読んで
●『オローニの日々』いい本ですね。アメリカ先住民の生活のヴィジョンが、ファッションでも流行でもなく、しっかりととらえられています。製本もカッコよく、パーフェクトです。(熊本県 M・T)
●『オローニの日々』なかなかユニークな内容で、訳文もこなれていて読みやすいですね。
随分以前に金関寿夫氏の『ナバホの砂絵』(?)で、アメリカ原住民の文化について初めて知りましたが、彼らの精神の一種の「浄らかさ」は、文明人にとって清涼剤以上のものであると思います。(静岡市 M・H)
●忙しくてまだ全部は読んでいないけど、内容はおもしろい。
未開人の生活は、なんて合理的なんだろう。生存という意味において、文明人の生活は非合理、ナンセンス、狂っている。
合理的な生活というのは、しかし一方では過酷なものだと、狂った文明人に彼らは迫る。(高知県 K・N)
●日本でネイティブに関する本を書店で見ますが、『オローニの日々』のように、彼らの生活がこんなに分かりやすく手に取るように目に浮かぶような本は初めてです。
私はアメリカ・ワシントン州のシアトル近辺のネイティブをいずれ紹介したいと思っているのですが、コースタル・セイリッシュ(バンクーバー島、シアトル間のネイティブの総称〔?〕)とオローニを比べると、動植物が豊富で畑を持つ必要がない共通点が分かりました。異なるのは、セイリッシュは生活全面に杉を使い、料理などお湯を使うにも杉の箱や皿を用い、漁にも杉の皮を使った網、服も杉の皮を使うなど杉文化のようです。
まだ途中までしか読んでいませんが、貴重な本だと思います。(神奈川県、Kyoko)
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