真弓 定夫
『つながる いのち』
――食べ物と環境から見た育児の基本
【目 次】
は じ め に P7
寿命は子供のころの環境で決まる P8
子育ちと「子供の成人病」 P11
アレルギー、心の偏りと自然 P14
薬を避けて全体食を P19
「身土不二(しんどふじ)」、
季節と年齢に合った食べ物を P25
歯から見た食、肉食と「牛乳神話」 P31
季節の食事と油漬け P38
砂糖漬けの子供たち P42
食べ物以外で大切なこと
――よく噛み、よく遊び、密接なかかわりを P47
下半身の「冷え」と子供たちの低体温化 P52
《質問コーナー》
無駄をなくし環境を守ることが
子供たちの健康を守る P56
母乳は母子間のバランスがとれている印 P60
真弓 定夫
つながる いのち ――食べ物と環境から見た育児の基本
(東京・吉祥寺 真弓小児科医院)
(1990年12月 東京都国立市 富士見台団地幼児教室での講演)
【本書より抜粋】
は じ め に
小児科医院というのは、病気を治す所ではありません。
子供たちが病気にかからないようにするには、妊娠期間中からどのような生活をしていったらいいか、お母さんたちと一緒に相談したり、勉強したりしていく所です。と言っても生身のお子さんですから、もしも病気になった場合には、病気を治す所でもあります。
どちらが大事かと言えば、予防することの方が、はるかに大事なのですね。
今日は、医者に行く前に、それ以前に(健康診断はした方がいいですが)、かからなくて済むようにするには、どうすればいいのか、皆さん方と一緒に考えていきたいと思います。
寿命は子供のころの環境で決まる
そうは言っても、今現実には子供の状況は、マスコミ報道でご存じでしょうが、憂慮すべき状態になっています。私共診療する側の目から見ても、そう感じざるを得ません。
今、割合話題になっている本に、西丸震也さんの『41歳寿命説』というのがありますが、読まれた方ありますか? 週刊誌とかでご覧になった方はありませんか?
あの方は1975年、15年くらい前から、当時の5歳から14歳だった人は39歳から43歳で亡くなる、と言っています。現在20歳から29歳の人の半数はこれくらいで亡くなる、と言われています。15年前には話題になっていなかったのですが、今年本が出てからは、かなり話題になっています。
山梨大学の中原英臣助教授が反論を書いていますが、私はどちらかと言うと、非常に残念なことですが、中原さんの意見より西丸さんの意見に、近い感じをもたざるを得ない。41歳と言い切るのはどうかな、というのはありますけれど――。
これからの子供たちが、短命化に向かっているというのは、今の生活を続けている限りにおいては、否めないですね。
日本は世界一の長寿国になって、女性の方は82歳近く、男性は76歳まで生きられる。しかしこれは、皆さんすべてが82歳まで生きられるということではありません。今年生まれた赤ちゃんが、82歳まで生きられる可能性があるということ。
ただしそれには、非常に大切な前提条件があるのであって、現在80歳のお年寄りが過ごしてきたと同じような生活環境の中で大人になれば、80歳まで生きられる、ということなのです。
寿命というのは、大人になるまでの生活環境が、非常に大きく影響するのです。
具体的に言えば、今より60年から80年前のころの日本の環境の中で、今、保育園や幼稚園などに通って来ているお子さん方が成人するならば、80歳までは大丈夫でしょう。逆に言えば、今の状況では、非常に困難だということです。
昔は水もきれい、空気もきれい、紫外線も今ほど多くない。土もきれいだったし、農薬とか、化学肥料も使っていない。生活のリズムが確立されていて、早寝早起きの習慣付けができていた。ストレスは少ない。塾とか、そんな所へ行く必要がなかった。そういう環境の中で20歳を迎えられれば、80歳も大丈夫、ということです。
逆に、西丸さんが現在41歳寿命説を唱えていることは、今の置かれた環境の中で、お子さんが大人になってしまったら、このくらいで半数は亡くなる、ということなのです。 少しずつでも、衣食住すべての環境を変えていくならば、80歳は無理かもしれないけれど、50歳、60歳と伸ばすことは、十分に可能なはずです。
西丸さんの言われているもう一つの大事な点は、15年前の話で、そのころ5歳から
14歳の半数は39歳から43歳で亡くなるということですが、むしろその後の方が問題なので、生き残った半数の人たちも、この当時のお年寄りも、もっと呆(ぼ)けた姿となって残るだろう、ということです。早呆けということを言われている。
その兆しが、残念ながら今の子供たちに芽生えています。
無気力、無感動、無関心――。
皆さん方で、そのことを是非、歯止めを掛けていってほしい。
生き生きとした一生を、子供たちがこれから過ごしていけるようなことを、考えていってほしいのです。
子育ちと「子供の成人病」
具体的にどんな現実があるかと言うと、一例を挙げれば、ちょっと前の話ですが、私の看ていた小学校6年生の教室で、隣に座っていたお子さんが、前の日に一緒に仲良く遊んでいたのに、夕食後意識不明になって倒れてしまったのです。お母さんがびっくりして救急車で武蔵野市内の病院へ運んで、先生も一生懸命手を尽くしたけれど意識が戻らず、その日の内に一晩で亡くなってしまったのです。
解剖の結果、脳溢血(のういっけつ)。小学校6年生の脳溢血でした。
そういう指摘も、北里大学の高木俊政先生が、大分前にしているんですね。高木先生は解剖学の先生ですから、気の毒なことに小さい時に亡くなった子供の解剖件例に基づいて言っている。健全な子供とは多少差はあるでしょうけれども、0歳児は25例中14例で半数以上、1歳児は11例中10例でほとんどに、脳動脈血管の異常の兆しが見られるそうです。病変としては10歳くらいから現れても不思議ではない、ということを随分前に指摘しています。それが、現実になってきている。
0歳児の半数以上と言うことは、当然お腹の中の環境も考えていかなければいけない、ということです。
今日そういうことまでお話しするというのは、お子さんの育児は「子育て」ではなくて「子育ち」なわけですからね。子育ちの過程の中で、今保育園に通っているお子さん方が、お父さん、お母さんになる時までをも見据えて育てていかなければいけないんだ、ということです。
ナポレオンは「育児というのは、その人の生まれる20年前から始まる」と言っている。つまり、しっかりした育児ができるお父さん、お母さんを作るには、20年の歳月が必要である、ということを言っているのです。今から、もう既に皆さんから言うと、お孫さんの時代まで見据えて、今のお子さん方を育てていって頂きたい。
いずれにしても、脳血管障害とか、あるいは糖尿病で自分で注射している小学生などもいます。胃、十二指腸潰瘍(かいよう)のお子さんもいますよ。
私共の外来に小学生が来ると、子供本人が言うのです。「肩が凝る」「腰が痛い」とか。そういった、30年前には考えられなかったことで、小学生が来るのです。
いわゆる、「子供の成人病」です。「子供の成人病」なんて言葉、おかしくないですか、何気なく使っているけれど――。
私は昭和30年に医者になっていますが、昭和26年から30年の間、医学部で抗議を受けていた当時の学生で、「成人病」という言葉を知っていた学生は一人もいませんでした。「老人病」だったんですよ、「成人病」という言葉は。
昭和31年に、癌と脳血管障害と心疾患――心不全ですね――、当時からずっと死因のワースト3になっている、三つの疾患群を研究する研究班ができました。それに「成人病研究班」と名前が付いた。「成人病」という言葉は、三十何年しか歴史がないのです。
「老人病」が「成人病」になり、それがどんどん年齢が下がってきて、「子供の成人病」なんて矛盾した病名を付けざるを得なくなっているのが、現状です。
「成人病」が低年齢化している、というのが一つにあります。
(以下は本書にてお読みください)
【著者略歴】
1931年・東京生まれ。東京医科歯科大学卒業後、同大学病院小児科学研究室入局。田無市・佐々総合病院勤務を経て、1974年武蔵野市に真弓小児科医院を開設。経済成長と核家族化による、見失われてきた本来の自然流育児、健康を精力的に実践提唱されている。ご自身でチェロを演奏する、音楽愛好家でもある。
真弓小児科医院 〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-13-3 吉祥寺医療ビル2F Tel.042-221-3870
【主な著書】
『つながるいのち パート2』(→こちら) スタジオ・リーフ(1994年)
『自然流育児のすすめ』 地湧社(1987年)
『お母さん! アトピーから赤ちゃんを守ってあげて』 合同出版(1988年)
『自然流生活のすすめ』 地湧社(1989年)
『医者の門をたたく前に』 芽ばえ社(1989年)
『アレルギー・小児成人病にならないための子育ての知恵』 エイデル研究所(1991年)
『飽食日本の子どもが危ない』 廣済堂出版(1992年)
『「超」寿の条件』 NECクリエイティブ(1994年) ほか
1991年8月25日 初版発行 編集発行:大築準 企画印刷:大築佳子 表紙絵:宇賀地洋子
2003年6月現在33刷(総発行数40,000部突破) テープ起こし:坂本葉子
本体価格500円(多部数贈呈サービスあり) ISBN4-915963-04-7 C0077
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